10 省エネ運転(揚水設備)
揚水設備の省エネ
処理場の省エネは重要な課題ですが、揚水設備の省エネを実施しようとするとなかなかいい方法が見つかりません。簡単に
思いつく方法は以下のようなものです。
(1)運転台数の削減
(2)ポンプ井の高水位運転の実施
(3)その他、汚水ポンプの速度制御方式
どこの処理場も晴天時の流入下水量は、概ね以下のグラフのような流入曲線となります。
合流を含まない分流処理場などは、昼間と深夜帯の流入差がさらに大きくなる傾向があります。
水処理施設では安定した処理を行いたいので処理水量の変動幅をなるべく少なくしたいとの要求もあります。
このため、流入幹線、沈砂池、ポンプ井の貯留量などを加味しながらの運用となります。
汚水ポンプで良く使用される制御としては、「水位流量制御」があります。ポンプ井水位を常に監視しなくても(全くみない訳ではない)
水位・流量曲線によって水位と流量変動を設定範囲内にすることが可能です。
「4 揚水設備(3)水位流量制御」

(1)運転台数の削減
合流・分流下水の流入がある処理場のポンプ井では分離されて運用するのが一般的です。
また、汚水ポンプについては流量変動に対応できるようにVVVF等の速度制御が使用されています。
以下の例の「通常運転」では、合流・分流汚水ポンプを各1台を連続で運用しています。

ここで、下水の流入水路の分離ゲートを開けて使用することにより分流ポンプ1台で足りている時間帯(深夜の時間帯等)は、
1台運転とします。分流ポンプの揚水能力が不足する時間帯に合流ポンプの運転・停止水位を高く設定しポンプを追加運転させるようにします。
なお、合流沈砂池水路の一部を閉じているのは、合流沈砂池にスカムや沈殿物の発生を少なくする目的です。

各処理場の流入の方式や水処理施設の構成の違いによりや制限はあると思いますが、基本的な考えは同じです。
工夫により運転台数の削減を行う事になります。
上記運用の弊害
(a)降雨時などは沈砂池水路のゲートや分離ゲート又ポンプの起動設定値を「通常運用」に戻す必要があります。
なお、分離ゲートは開けたままの運用でも
危険性はありません。ただ、滞水池の運用が想定された通り使用されない事になります。
想定能力を発揮させるには降雨時に分離ゲートを閉める必要があります。
(b)合流沈砂池、ポンプ井の下水の入れ替わりが少なくなるのでスカム、沈殿汚泥分の発生等が多くなる可能性があります。
対策としては、定期的に合流沈砂池のフラッシングを行う必要があるかもしれません。
(2)ポンプ井の高水位運転の実施
ポンプ井の水位を高水位にすることにより揚程が低くなり、ポンプの使用動力を下げた運転が可能となります。

汚水ポンプの通常運転
1日の水処理系への送水量の変動幅はなるべく少なくなるようにポンプの運転制御を行います。
また、沈砂池、ポンプ井にスカム・腐敗下水等の発生少なくするため、下水の貯留は少なくするようにポンプの運転制御を行います。
晴天時、下水の1日の流入パターンは大きく変動します。このため、送水量と貯留とはトレードオフの関係です。

高水位運転
下水幹線、沈砂池、ポンプ井の貯留を活かして、可能な限り高めの水位での運転を行います。

上記運用の弊害
(a)台数削減と同じように沈砂池にスカムや沈殿物が増加します。改善のために定期的に沈砂池のフラッシングを行いますが、各水路を一気に行うと高濃度の腐敗下水が水処理系に送水されるため
処理に悪影響が出る場合があります。
(b)運用上、降雨が予測される場合は、ポンプの起動設定値やポンプ井の水位を下げておく必要があるかもしれません。
ポンプ井の高水位運転の懸念
昔、省エネ運転を目指して、高水位運転を実施したことがあります。
結果的に高水位運転は、それなりに電力の削減に効果がありました。
ただ、高水位運転を行うと沈砂池等に下水沈殿物(腐敗物)が増加します。このため長期に続けることはありませんでした。
今から考えるとスカムや下水の沈殿物が多かったと言うことは腐敗性ガス(硫化水素やメタン等)も多かったと考えられます。
最近、下水幹線の損傷による陥没で大きな事故がありました。
「硫化水素等のガスによるコンクリートの腐食の促進が原因ではないか」と言うことですが
「処理場の省エネ」が下水幹線の腐食を促進させていたとしたら?
過去を振り返り、大いに心配になりました。
経験上、ポンプ井の水位を低水位に保ち、下水が常に幹線を流れている状態(下水が新鮮な状態)にすれば腐敗(ガスの発生)は少なくなります。

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(3)その他、汚水ポンプの速度制御方式
汚水ポンプ速度制御方式については詳細には上げませんが省エネ的には以下の順になります。
「液体抵抗器」→「セルビウス」→「VVVF」→「固定速」(速制ではない)
VVVFは電子ものであるためライフサイクルコストを考えた場合、更新費用が高いためコストを回収できるかについては微妙です。
ただ、省エネ(CO2削減)を考慮すると汚水ポンプの新設や更新時に費用が許せばでは「VVVF」となります。
「固定速」を上げたのは、
流入下水の流量変動が少なく「固定速」1台でほぼ連続運転(ポンプの運転・停止がほとんどない)が可能な施設では「VVVF」より省エネ、設備コストの削減期待できます。
気をつけないといけないのは、初期計画の目算が外れ運転・停止が過度に発生すると大きな流量変動がもろに処理系にかかることになります。
ベース流入量が固定速(1台+α)、変動分(1台)が速度制御方式なども考えられますがなかなか設計は難しい。
長い年数の設備管理では運用条件がいろいろ出てきます。このため、当方としてはできる限り制約から逃れられる速度制御方式(どの方式でも)が好みです。
(4)評価
各処理場の設置場所は、地理的な影響を受け、揚水施設の構成も一つとして同じ構成のものはないと思います。
このため「例」で上げた設備と全く同じ事はできないかもしれませんが、揚水設備で省エネを求めると対応が限られるため同じような考え方になるような気がします。
ただ、どちらの工夫も省エネができるのですが、ある程度手間をかけないといけない部分があり中々決め手がなく長続きしません。
理由としては、手間に見合う省エネになっていないからかもしれません。
「11 液体抵抗器」
「12 高圧インバータ」
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