7 巻き線型高圧電動機器の保守
汚水・雨水ポンプ用巻き線型高圧電動機のブラシ清掃
下水処理場で使用される汚水ポンプ、雨水ポンプ等は巻き線型電動機よって駆動されています。
(最近はブラシのないかご形も見かけるようになりました。「12 高圧インバータ」) ]
巻き線型高圧電動機は運転時間に合わせて定期的(1か月~3か月/1回)にブラシの清掃を行う必要があります。
巻き線型高圧電動機で以下の2種類があります。
(1)運転中、常時ブラシをスリップリングにつけている速度制御方式
ブラシの損耗が大きくなります。
(2)カムコンによる起動後、ブラシを引き上げ短絡する固定速方式
ブラシはほとんど損耗しません。
このため、方式により清掃周期は変化することになりますが、作業手順は同じで以下のように行います。
清掃周期については、各ポンプの運転時間で行うのが合理的なように思いますが、不定期となり、長くなると清掃漏れの原因になるのでとにかく定期的に
行うのがいいように思います。
1 作業前のKYT(危険予知訓練)
(1)作業内容、手順の共有化
(2)養生作業の確認、注意点確認
反省点
通常作業に埋没して、なかなか身のある形にできていない。
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2 ブラシ清掃時の工具類
(1)準備する工具類は、
①検電器、接地器具、ゴム手袋等
②防塵マスク、防塵メガネ、手袋等防護品
③掃除機
④小型ブロワー
⑤ウエス(枚数確認)
⑥サンドペーパー
⑦LED固定照明(ブラシ清掃作業時に使用)
⑧100V用コードリール(掃除機、小型ブロワー)
(2)必要に応じて
⑨ノギス(ブラシ寸法測定用)
⑩バネばかり(ブラシ圧測定用)
⑪ブラシ交換用スパナ類
⑫交換用ブラシ(号機毎に型番がある)
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3 ブラシ清掃前の養生作業
(1)対象号機を中央監視制御室で「自動→手動」モードに設定します。
(2)揚水ポンプ室の現場機側盤で「常用→機側」モードにします。
(3)揚水電気室で対象号機の遮断器(VCS)を引き外し
①遮断器のOFF確認、電力値「0W」又は電流値「0A」を確認後
②遮断器の扉の施錠解除
③遮断器の機械的なインターロックを解除し、引き外して試験位置でロック
④遮断器盤に鍵をかける。
⑤遮断器盤の表に「作業中 操作禁止」札掛け
遮断器の引き外し作業確認は2名で行うこと。
①機器が多くなると間違える可能性が高くなるため。
例え優秀な人でも長い人生の間には凡ミスをします。
②作業員2名は、組み合わせにより、ベテランと新人等になる場合があります。
新人が間違いを指摘できる程度の知識を有していること、間違いを指摘しやすい環境も必要です。
(間違いの指摘に、ベテラン・新人の違いなし。また、残念ながら年寄り=ベテランではない。)
単なる数あわせではありません。
本当の新人であれば、作業がわかるまで3名での確認が必要です。
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(4)作業順番を変えないこと。
操作対象設備の配置は、以下となります。
①中央監視制御室「手動変更」
②揚水電気室「VCS引き外し」
③現場機側盤「機側」
設備の配置によっては、
「機側」モード前に「遮断器を引き外したい」誘惑に駆られることがあります。
「機側」モードにするのは遮断器引き外し時に、
万が一にも引き外し中にポンプの起動をされないようにするためです。
中央監視制御室「自動→手動」→現場機側盤「常用→機側」→揚水電気室「VCS引き外し」です。
なお、作業終了後は、
揚水電気室「VCS挿入」→現場機側盤「機側→常用」→中央監視制御室「手動→自動」です。
順番の手抜きは行わない。
(5)揚水設備電気室のVCSの引き外し作業
(6)揚水ポンプ室の養生作業
①高圧電動機のスリップリング及びブラシ部分の検電、放電を行う。
②ブラシ清掃部分に、接地金具を取り付けます。
接地器具の取り付けにつて(3 高圧電動機の養生)
労働安全衛生規則の第三百三十九条(停電作業を行なう場合の措置)に作業中は、
接地器具の取り付けが必要となります。
ただ、作業性が悪い場合もあり、取り外している場合もあります。
規則上問題があるので、短時間など限定的なものとします。
なお、液体抵抗器を使用する電動機の二次側は接地状態です。
ここでの表現としては、あえて「必ず取り付けて作業」との原則になります。
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4 ブラシ清掃作業
(1)養生作業を含むKYT(危険予知訓練)作業内容の再確認。
(2)防塵対策をしてから作業開始。
(3)電動機のブラシ部分のカバーが外せるものは、外してから作業を行います。
カバーを外した方が当然きれいに清掃できます。
ただ、重量があり、クレーン等で取り外してからの作業は、時間もかかります。
また、回転計などがとりついて簡単に外せない電動機もあります。
その際は、カバーを取り付けたままの作業となります。
ブラシ取り付け位置の点検口のスペースは小さく、ブラシの配置に対して狭く製作されています。
頻繁に行わなければならない作業なのでメンテナンス性を向上させてほしいものです。
多少大きくしても、揚水ポンプ室のスペースに影響はないのですがやはり小型の方が金額
が安い?のでしょうか。
メーカーには改善を希望します。
(4)ブラシを全て、ホルダーから外します。
その際、ホルダーの引っかかりなどがないか確認します。
ブラシ粉で引っかかる場合は、清掃周期を上げる必要があります。
(5)ブラシの取り外し後、掃除機で、吸い取れる部分の汚れを全て吸い取ります。
(6)掃除機で吸い取れなくなったら、小型 ブロワーで吹き飛ばす。
逆にするとブラシ粉が舞い上がり、体に良くない。
(7)ウエスによるブラシ、ホルダーの清掃を行う。
基本的に、3相を分割している絶縁部分やサポート部分にブラシ粉が蓄積すると
レアショートの原因となります。
(8)ウエス、サンドペーパー等でブラシのエッジのバリとりを行います。
サンドペーパーを使用した際は丁寧にブラシ表面を磨き、ペーパー粉を表面に残さない。
残すと、逆にスリップリング表面に傷が付きます。
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5 ブラシ、スリップリング等の点検
(1)清掃後、各部の点検を行います。
(2)ブラシの摩耗度
ブラシの摩耗が進行している場合は交換を行います。
過去、台帳を作りブラシの損耗度をノギスにより測定し、管理していました。
しかし、労力の割にうまく管理ができません。
現状では、ブラシがホルダーに押さえ込まれたときの使用位置をメーカーの基準位置
より多めにしており、「ここまで来たら交換する」といういうように単純に変更しました。
これにより、諸般の事情で作業周期が多少伸びても余裕があるようにあるようにしています。
作業者を信用しない訳ではないですが、長い管理の期間中にはいろいろなことがあります。
ブラシの交換費用をけちってぎりぎりまでブラシを使用し、スリップリングを焼損さる場合
を想定すると十分ローコストですみます。
また、ブラシ交換の手間から作業員がまだ大丈夫と先送りをしてしまうケースもあり、
早めのわかりやすい基準にしたのが理由です。
(3)スリップリングの傷
長年使用すると、スリップリングが全体的に摩耗するだけではなく溝ができることがあります。
修理を計画する必要も生じます。(9 維持管理の計画)
(4)ブラシ、ホルダーの取り付けねじの緩み
緩んでいないか確認、緩んでいる場合は増し締めを行います。
(5)ブラシ押さえのバネ圧
メンテを行っていますが、バネ圧が落ちたケースはほとんど当たったことはありません。
完成図書にはメーカー指定があります。概ねの数値を得るために、何度かやってみること
は必要です。
だいたいの感覚を覚えれば、取り外しの際におかしいと気付きます。
(6)ブラシの交換
①管理値より損耗しているブラシを取り外し交換します。
取り付けるブラシは、面処理が行われていることと、面のすりあわせを行います。
ブラシに取り付けているリード線(シャント)の端子台を外し、新品を取り付けます。
②ダブルナットになっているので端子が確実に締め込まれているか十分に確認します。
③1回に交換するブラシの個数は「各相毎に1/3度程」にします。
残りは、次回点検以降も1/3毎に行います。
間違っても、全てのブラシを一度に交換しない。
すりあわせが悪いと熱を持ち、場合によっては、スリップリングを焼損します。
(7)全てのブラシを再度ホルダにセット
この際、ブラシの方向に間違いがないか十分確認します。次回確認するときまで誤用が続きます。
とにかくセットした人とは別の人が再度チェックします。
(8)作業後、ブラシカバーを取り付けます。
カバー内に、工具、ウエス等が残っていないか再確認します。
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6 試験運転
(1)作業員全員に復帰するむねの情報を共有します。
(2)作業後、
揚水電気室「VCSの挿入」(2名)→現場機側盤「常用」→中央監視制御室「手動のまま」
で試験運転を行います。
「自動」に戻さないのは、試験運転を行うため。
ポンプを「機側」モードでも運転できますが、できる限り通常状態を確認したいためです。
(3)試験運転の目的は、
①引き外しを行ったVCSの動作確認。
②ブラシの異音、火花等の異常の有無確認。
ブラシの状況確認で、防護カバー(メッシュカバーの場合)越しにスリップリング面を確認します。
近づいて目視する際は清掃後でもブラシ粉や不具合の場合の火花が飛ぶと危険なので、
防護メガネをかけた状態で確認します。
防護メガネをしていない場合は、やや離れた場所で、斜め下を見る形で確認します。
小さな飛来物は円周上に飛びます。
③ブラシ引き上げ装置では引き上げ、短絡の確認。
④電流値の確認になります。
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7 補足
巻き線型高圧電動機で使用されるブラシについて
「電動機メーカーの純正品」と「ブラシ製造メーカーの互換品」があります。
互換品は、メーカーの詳細仕様と品番を元に同様のものが供給されます。
しかし、メーカーが詳細仕様を出していない場合もあります。
また、互換品の場合、メーカーの瑕疵を認めない場合もあります。
「ブラシの清掃例」にある電動機のブラシの硬度が柔らかく消耗が激しい電動機でした。
メーカーが詳細仕様を出していたこともあり互換品を使用していました。
互換品の値段は、純正品に比べ1/3程度になります。
特に、このブラシを使用したことによる支障はありませんでした。
ブラシの硬度が固く、損耗が少なく交換頻度が少ない場合は純正品で良いのかもしれません。
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