6 避雷針の行方
新築のポンプ場の完成間際になり、建物の高さが、20mを少し超えることが
判明(迂闊)し、避雷針を設置しなければならないことになりました。
建築基準法に関する法規によって建物の高さが20mを超えている場合は、避雷針の設置が必要です。
一方で、建物の高さが19.9m以下であれば、法的には設置を必要としません。 ただし、19.9mの場合も煙突や屋上広告、アンテナなどを設置して20mを超えた場合は避雷針を設置し、落雷を回避しなければなりません。
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建築設計では最初からわかっていたはずです。が、ぼやいてもしょうがありません。完成が間近です。対策しないといけません。
しかし、
「避雷針を取り付ける場所」
が決められていません。
前任者の仕事の引き継ぎで、着任したばかりです。何もわかりません。急遽、建築の設計コンサルタント(以後、コンサル)と打ち合わせを行うことと
なりました。
漏れた理由は、建築設計とプラント設計で情報が共有できず、ダミー装置の高さを含めると建物の高さが20mを超えることとなったそうです。
いつも思うのです。世の中の基準は「最低」
を表しており、建築基準で19・9m以下の建物でも避雷針を設置してもいいはずです。ぎりぎりの設計ではなく。
何はともあれ設備の設計を行い、工事の発注を早急に行わなければなりません。
コンサルは、建築が専門で、プラント関係には不慣れであったように記憶しています。
幸い、ポンプ場の規模から避雷針は1本立てるだけで基準をクリヤできることがわかりました。
コンサルはこちらに、設計案として、
「屋上に設置されている鋼製の自家発設備のダミー装置(自家発の試験及び軽負荷対策用)がおおむね
建物の中心に位置しており、これに背負わせることが良いのではないか」
と相談に来ました。
その時点で、特に考えもせず、OKを出したのですが、
こちらでは何となく不安を感じたので、先輩
(ある先輩)
に相談をしました。
先輩は直ぐに
「これではまずのではないか」
とのアドバイス。
よく考えると、よく考えなくても落雷があると、一部の雷電流がダミー装置を経由して高圧回路に
流れ込む可能性があります。
自家発運転中に雷が落ちたら、、、想像できません。
これは、非常にまずい状態です。
すぐ、コンサルに連絡し、再度設計打ち合わせを行い。位置を自家発設備の煙突部分に変更しました。
ただ、取り付け架台が有るわけではないので、ケミカルアンカーの取り付けとなりました。
コンサルは「強度は十分」といっておりましたが、強風であおられる避雷針が問題ないか未だに自信がありません。
このケースは、実際に施工発注前に気づき(教えてもらい)事なきを得ました。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」
この設計事案は、当時前任者から引き継いだ形ですが、
「そもそもダミー装置を屋上に設置する設計で問題ないのか」
後にポンプ場の運用が開始されて疑問を感じるようになります。
雷が避雷針だけに落ちてくれれば良いのですが、中には万に一つの確率で
ダミー装置に落ちる可能性があるのですから、その際は、自家発設備に重大にな損傷が発生することが
予想されます。
ただ、建物の設計段階で落雷確率を説明し屋上以外の場所にダミー装置を設置するために建物の形状を変更することは可能でしょうか。
建築費を押し上げる場合に職場内で説得できるかどうかは未だ不明です。
妥協して、落雷してもダミー装置の高圧回路にサージが流れ致命的にならないようにダミー装置の構造的な工夫をすることでしょうか。
設備にどの程度反映し、妥協していくのか。
これは、どの程度具体化が進んでいるのかによります。
プラントの工事は、
基本設計→詳細設計→発注→出来高→施工→試験調整→完成と進みます。
基本設計の段階でまだ、更地であればいろいろなことが考えられます。しかし、予算が決まっており工期も決まっていれば、荒唐無稽の
検討はできませんが、自由度は一番大きな時期です。
基本設計が完了した時点で、建築物・構造体の後戻りが難しくなります。
詳細設計に入れば、よほどのことがあっても部屋は広くなりません。プラント側で配置をいろいろ工夫するしか方法はありません。
設備ができあがり完成に近づけば近づくほど、プラント設備は妥協が必要です。知識不足による大きなミスも顕在化します。
その結果
悩んだ末、凡人の設備の完成度は、
「70点」
をめどとする。
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この建物は、近くを走るJRの車窓からよく見えます。
過日、雨の日に眺めて、「ダミー装置に設置しなくて良かった」と安堵した記憶があります。
なお、それから何年も経ちますが、ダミー装置に落雷して自家発設備が故障したとの噂は幸い聞いていません。
安心はできませんが・・・・。
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