17 初沈汚泥流量計のセンサー異常
1 故障内容
ある日の故障です。
毎月の運転号機の切り替えで最初沈殿池(以下、初沈)汚泥引き抜きポンプをNo.12からNo.11に切り替えて運転した際の話です。
切り替え後、運転中に初沈汚泥引き抜き流量計の「センサー異常」の瞬時故障が発生するようになりました。
頻度は、一日24回の引き抜きで数回程度の発生です。
瞬時の故障ですが、流量計の「センサー異常」が発生すると初沈汚泥引き抜き制御がプリセット制御からタイマ制御に切り替わる実害がでるため故障調査を開始しました。
因みに、No.12ポンプに戻すと、「センサー異常」がなぜか発生しません。
2 設備概況
(1)初沈は4池、掻き寄せきも4台設置
(2)初沈汚泥引き抜きポンプは2台(常用・予備機)、初沈汚泥引き抜きエア弁は4台
(3)初沈No.11、12は終沈(最終沈殿池)の2池の修理工事に併せて休止
(特に工事があるわけではないため使用中であったが下水が残ったまま停止、若干ものぐさ?)
(4)引き抜きエア弁No.11、12は池休止制御により自動「閉」
(5)池排水管は使用していない。
(6)初沈汚泥引き抜き流量の電磁流量計は、1981年製と超古いがそれまでは特に故障なし
(7)濃度計は故障中
(8)初沈の引き抜き制御は、プリセット制御を選択
工事前の運用
工事中の運用
3 初沈汚泥引き抜き制御
初沈汚泥引き抜き制御は以下の2モードがあります。
(1)プリセット制御
この機場のプリセット制御は、
①1日の引き抜き量を設定
②引き抜き間隔設定(今回1時間毎)
③各池の引き抜き比率を設定
④各池を指定された流量
で周期的に引き抜く。
引き抜き流量の電磁流量計にセンサー異常が発生するとタイマ制御に自動的に移行します。
(2)タイマ制御
汚泥引き抜きポンプは連続運転、引き抜き弁を設定した時間で順次切り替えます。
4 実際の引き抜き制御状況
(1)正常時の引き抜き制御のトレンド(No.11、12池休止中)
(2)異常時の引き抜き制御のトレンド
5 計装制御回路
計装制御回路は以下のようになっており、No.12ポンプと共通部分がかなります。
電磁流量計が原因と考えるとNo.12にも同じ現象が起きてもおかしくありません。
このため、原因の推測として、No.11のインバータのノイズ等の影響なども考え、かなり調査に手こずりました。(鶏が先か、卵が先か)
また、40年前の電磁流量計です。かなり、濃厚な疑いがあります。
調査が詰まったため、もう一度、故障がどの時点で発生しているのか。その時点の電磁流量計の信号波形を調査することにしました。
中央監視LCDで監視しているトレンドでは詳細波形がわかりません。現場にデータレコーダーをセットし、詳細波形を確認することにしました。
6 現象の原因
No.11汚泥ポンプが運転して、2~3分経過すると、流量信号が大きく上下して、乱れています。
この波形は、常時乱れているわけではありません。
(1)ノイズの影響だと考えると、運転中、常に発生していないとおかしい。
(2)電磁流量計の故障だとすると同じように周期的に発生する確率はないとは言い切れませんがすくないと考えられます。
No.12汚泥ポンプを運転したときも同じ周期で波形のみだれがあります。ただ、「センサー異常」を起こすほど信号が上下はしていません。
このことが、調査を逡巡させる原因ですが、
この現象は、やはり、電磁流量計が気泡(ガス)の影響を受けていると考えた方が合理的という考えに行き着きました。
ではなぜ、No.12は発生しないのか。
ポンプの配置は、池に対してシンメトリで配置に大きな違いはありません。しかし配管の距離の違いはあります。
このため管内の気泡の流れ方による違いと解釈しました。(正しいかは不明のまま)
次に、気泡(ガス)だとするとどこから供給されるのかの疑問が出てきます。
仮説1
最初は、池の引き抜き周期があり、その間に引き抜き管内たまり、運転と同時に、気泡が移動し、集まった時点で電磁流量計に影響が出ている。
疑問、新鮮?な下水で気泡がそんなに出ているのか?
2池使用になり、水量低下により汚泥が腐敗しやすくなっている?
仮説2
使用休止中のNo.11、12の引き抜き管内のデッドスペースが腐敗し、気泡を供給している。
腐敗ガス発生と同時に減量しているので、汚泥ポンプの運転のたびに少しづつデッドスペースの汚泥が入れ替わっている。
こちらの方が、何となくすっきりします。(確信はありませんが)
なお、なぜ連続的にセンサーに異常が発生しないのかという疑問ですが、発生する気泡が少なくある程度まとまった状態でしか供給されないものと
推測します。
7 仮説2のイメージ
今回の原因のイメージ
8 対処方法
気泡の混入というのは物理現象です。また、電磁流量計(最新機器は不明)が気泡に弱いためです。
このため対処することはできません。対症療法的に、電磁流量計の信号ラインで加工が必要となります。
電気的にはいろんな方法が考えられますが、一応2案を考えました。
(1)一次遅れ変換器を使用しピークを回避する方法
遅らせすぎると、VVVFで制御しているポンプで実際に流量変化があると共振現象が発生する。
(2)アナログメモリを使用して、センサー異常が発生する直前の信号をアナログメモリにホールドさせる。
警報設定器を使用するとスパンのデータが制限される。
とりあえず、一番簡単な一次変換器がスマートのように思います。
(1)一次変換器の使用例
(2)アナログメモリの使用例
9 賢人の知恵
なお、今回の故障には、対症療法しかないように話しましたが、気泡の発生を抑える方法はあります。
それは、昔の賢人たちと同じように、休止する池はきれいに洗浄し、池と配管をきれいな処理水で置換しておくことです。
このようにすれば、デッドスペースの腐敗ガスの進行を抑えることができます。
ただ、長期に放置すると置換した処理水は配管内に付着した少量汚泥から気泡(ガス)が発生し、徐々に生汚泥が混入してきます。やがて今回と同様にガスが発生するようになります。
完全にガスの発生を抑えることはできません。休止中は、高頻度で行う必要はありませんが定期的に配管のデッドスペースを処理水による再置換が必要です。
(置換のやり方とは、休止中の池には処理水が貯められているので、引き抜き弁を開けて定期的に生汚泥ポンプで引くだけでよい。)
10 感想
今回の故障内容は、瞬時発生・復帰の「センサー異常」となります。
実害としては、プリセット制御が外れるということです。
「センサー異常」に30秒程度のタイマをつけて瞬時に制御が切り変わらないようにしていたら、
たぶん「センサー異常」のビット処理にロック(見ないふり)をしただけで終えるかもしれません。
あるいは、「センサー異常」自身に5秒程度(電磁流量計の役割では問題なし)のディレイタイマがセットされていたら特に問題はない故障なのかもしれません。
(今回は、瞬時の「センサー異常」なのでポンプの回転数に異常を与えるまでになっていない。)
プラントメーカ各社ともコントローラのアナログ信号の入力は、瞬時に判断されるためよく中央監視装置に発報されます。
(どこか1社?は、実装していたメーカがあったような記憶もあります)
このため、実害がない場合はやがて無視され、ビットがロックされます。 (今後、2度と異常が発生しない?)
信号異常でも、ものによっては、瞬時に故障を出力しないと支障のある信号も当然あります。
しかし、処理場の大部分のアナログ信号は、入力信号処理で「センサー異常」に数秒のディレイタイマを設けても問題のない信号です。
アナログ入力信号(全項目)の信号異常検知ソフトの処理に、是非、可変可能なディレイタイマを追加してほしいものです。
アナログ信号処理について
誤解をしてほしくないのは、アナログ信号は処理していないことです。ディレイをかけていません。あくまでも「信号異常」故障として出力されるビット信号です。
アナログ信号は、後に解析するために細かい分解能が必要なケースもあります。あくまでも生データが望ましいと考えます。
(なお、今回の対症療法は技術力不足でこれに反しています。)
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11 その後
修理工事が終了し、初沈を元に戻しました。それ以後、同様の故障は、発生しなくなりました。
このため、仮説は2が有力だったと考えています。ただ、一次遅れ変換器は当面取り付けたままとしました。
電磁流量計が更新されたら、回路を撤去してもいいかもしれません。
確か、最新の電磁流量計には自身でセンサー異常を出力する回路を実装していたと思います。このため、異常の検知ディレイ可能と考えます。
ただ、生信号がコントローラに入力されると、アナログ入力信号の標準処理を実装しているため「センサー異常」の検出をするかもしれません。(ビットロック?)
過去の記憶
今回のケースに似た事象で、別の処理場では解決できずに敗北したケースを思い出しました。
同じように初沈が4池あり、更新工事が完了し、2池が運用可能となりました。
残りの2池も、更新工事の影響で長期休止状態となるので、処理水で置換していました。
このときは、初沈汚泥引き抜き管は工事のため空にして新配管と接続されました。
このため、当初からの古い汚泥はありません。
しかし、2池の使用開始に伴い、空の配管は、エアー抜きとともに新鮮な生汚泥がデッドスペースに供給されています。
ここは、やがて腐敗してガスが発生します。
運用を開始して1か月ぐらいたったころから、ポンプに振動を発生するようになります。 原因はエアーです。
また流量が不安定で、制御に影響がでました。
こちらは汚泥配管に、洗浄水を流すルートがあり使用中の汚泥配管のエアー抜きを行い、洗浄します。
しかし、また一週間も過ぎると同じようなことになります。
ポンプを切り替えても同じようなことが発生しました。
当時は、このエアーが生汚泥から供給されるとの考えに固執していたため対処方法が考えられず、次の2池の更新工事が決まっていたため、
動かし始めた2池も休止することにしました。
なお、頻繁に洗浄したのは使用している池(生汚泥を引き抜いている池)で、休止中側の池の引き抜き配管については思い至っていない。
その後、他の処理場に異動になったため、状況は不明ですが、更新後、不具合が発生したとの話は聞いていません。
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